十冊目

神様のボート (新潮文庫)

神様のボート (新潮文庫)

★★★★☆

母親一人、娘一人がパパを待ちながら生活していく様子を描いた物語。

"Like a Rolling Stone"という言葉がよく似合う旅の物語です。
夢を生きる母と現実に目覚めていく娘。
ただそれだけの日々が多くの非常識と少しの常識的な日常でつづられるとても面白い作品でした。

「『必ず帰る』という言葉を残してママの元から去ったパパをほぼ一年ごとに引越しを繰り返しながら待つ」という行為自体が私には非常に理解しがたいのですが、作中のママにとっては何の疑問もないことであり、必然であることが淡々と描写されています。
裏表紙の解説にも書かれていますが、ママの執着には狂気すら感じられます。その狂気の対象者となっているものは「パパ」と「ピアノ」と「娘」。
娘は年少のころは絡みついた狂気から逃れることができず、母からの問いかけに『別に』と繰り返しますが、徐々に自分の言葉で反論し、高校生になる時に『家出』をします。「ピアノ」はモノなので逃げ出すことはありません。ただ、ママはじわりじわりとピアノとの距離感も失っているように感じます。(最終的にママとピアノの決定的な変化はなかった。)
最後のシーンはパパが現れて終わります。議論の余地があると思いますが私はパパとの再会は幻想でママは緩やかに『死』に向かったであろうと思います。
"Like a Rolling Stone"この石は最後にはどこに向かうか昔考えた事があります。
転がって転がって最後にどこに行くのか。川に行くのか、海にいくのか。自分は転がった末どこかに挟まってそのまま石としての一生を終えるように思いました。